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バイーアスカーレットの産卵

 投稿者:kaz  投稿日:2015年 3月 7日(土)22時52分44秒
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  今週私が出張で不在にしていた間に、我が家のバイーアスカーレットLasiodora klugiが産卵しました。
今回の繁殖にあたっては、少々珍しいことに挑戦しました。今回はそれをご紹介致します。

メスと成熟オスが手元に揃ったのは昨年の初夏頃。12月になってペアリングに取り組みました。メスはまだ若く体長7cmほどの個体ですが、ペアリングの際には毎回オスを受け入れる行動をみせていました。ところが、肝心のオスがなかなか憶病な個体で、タッピングや振動などの行動はとるものの、なかなか交接には至りません。年末までに何度かペアリングしましたが、結局交接したのは1回だけ(しかも、挿入した触手は片方のみ)でした。

状況が変わったのは1月中旬。それ以前からしばらくクモに給餌しない時期が続いていて、明日には久しぶりに餌用のコオロギが届く…というところでした。しっかり給餌した後でペアリングするつもりだったのですが、ふと魔がさして「まぁ、いつも寛容なメスだから、今回も餌やりの前だけど大丈夫だろう。」と思い、オスを差し向けました。すると…見事に共食いしました。
過去に数種のタランチュラを目の前でペアリングさせたことがありますが、共食いどころかメスが攻撃的に振る舞うことさえ見たことがありませんでした(ケージ内で同居させていたインディアンオーナメンタルを除く)。それ故に、完全に気が緩んでいました。ごく初歩的なことですが、飢えたメスにオスを向かわせるべきではありませんでした。完全に私のミスです。バキバキと音を立てて噛み砕かれていくオスを見ながら、そんなことを反省していました。とはいえ、今更引き剥がしてもオスは助かりはしないので、そのままメスに食わせることにしました。

しばらくメスの捕食を眺めていましたが、その後にふと思い立ち、食われているオスの触手を2本ともハサミで切断しました。昆虫でいうところのハンドペアリング(人工交配)に挑戦しようと思ったのです。
私はカマキリ飼育者ですから、共食いされたカマキリのオスを使って人工交配に切り替えたことは1度や2度ではありません。そんな経験から、タランチュラでも人工交配ができるのではないかと考えました。

空気に触れなければ精液はそんなにすぐ劣化しないだろうと考え、まずはメスがせっかくの御馳走(オス)を食い終わるのを待ちました。その間、オスの触手は4℃の冷蔵庫で保存しておきました。数時間後にメスが食い終わったのを確認したので、いよいよ人工交配のスタートです。

まずは、メスを大人しくさせる必要があります。
最初に試したのは寒冷麻痺でした。4℃の冷蔵庫にメスを入れて静置。熱帯域の生物で低温耐性は無いので、予想では20分も入れていれば十分だろうと思っていたのですが、うまく麻痺してくれません。結局30-40分くらい冷やしていたでしょうか。動きが鈍くなったところで(クモへの負担が気になって、完全に動かなくなるまでは待てませんでした)、クモを手袋をつけた左手に持ち、オスの触手を利き手の右手に持ちました。まずは試しに、オスの触手先端の膨らみ(ここに精液が蓄えられている)に軽く爪を立てて(クモの爪ではなく、私の爪です)圧迫。予想通り精液が出てきました。いよいよ今度はオスの触手先端の移精針をメスのポケットに挿入し、膨らみを圧迫して精液を出すことにします。…が、うまくいきません。ジワリと動くメスが筋肉を強張らせているせいか、腹部のポケットがピンと張っていて移精針が挿入できないのです。
この方法では、2つの点がダメでした。1つは、オスの触手先端の膨らみは爪を立てて圧迫してはいけません。爪を立てることで、触手の膨らみはパキッと割れてしまいました(そんな感覚が指に伝わってきました)。
もう1つは、寒冷麻痺では不十分であろうという点です。いくら熱帯域の種とはいえ、体が大きいせいで冷えにくいようで、なかなか動かなくなってくれません。いたずらに長時間冷やすことはクモの健康に良くないでしょうし、私のように中途半端に冷やしては、かえってクモの体を強張らせることに繋げてしまうようです。そうなると、ポケットへの挿入は難しいでしょう。

クモを大人しくするために次に試したのは、ガス麻酔です。これは使い慣れているので、効果があることは解っていました。もちろん、今回バイーアスカーレットのメスに使った際にも十分に効果があり、たちまちダラーンと脱力して動かなくなりました。麻酔容器から取り出した個体に麻酔が効いたままになっているのは、種によりますがせいぜい15分程度です。ですが今回の作業のためには、それだけあれば十分でした。先ほどと同じようにメスを左手に持ち、オスの触手を右手に持ちます。移精針をメスのポケットにあてがうと、今度はすんなり挿入できました。そこで触手先端の膨らみを指の腹で圧迫し、内部の精液を出し切りました。オスの触手を2本ともポケットに差し込んで精液を注入したら、手順は終了です。ここまで10分弱くらいだったでしょうか。

人工交配後のメスは通常の飼育に戻しました。特に食欲が増すことはありませんでしたが(と言いますか、多分ケージに入れた餌を全く食べていないです)、オスを食べたせいで腹部は膨らんでいました。そして、先週の頭くらいから床材の表面を軽く掘ってならすようになり、今週の月曜あたりに産卵した…というわけです。

今回の産卵にあたり、私が人工交配したことがどの程度影響しているのかは解りません。前述の通り、一応オス自身の力で1度は交接に至っていましたので、メスはそこで必要分の精液を受け取っていた可能性が十分に考えられます。また、産卵したとはいえ、無精卵である可能性も十分に考えられます。答えが出るのは約1ヶ月後ですね。さて、どうなるでしょうか。

先日、Cさんとのやり取りのなかでこの件をお話したところ、興味深いことをお聞きしました。アメリカなどでは以前から、タランチュラの雌雄を手に持った状態で(クモ任せではあるものの)交接させ、メスがオスを捕食しないように飼育者が助ける方法が知られているそうです。世の中、色々と手を尽くす方々はいらっしゃるのですね。共感するところがあります。

今回ご紹介したタランチュラの人工交配は、通常は数々の理由でオススメできません。以下にその理由を挙げます。

まず、オスの触手を切断する・圧迫するなどする破壊的な手法ですので、人工交配できるのは1回きりです。通常、飼育下でタランチュラのオスは複数回にわたって交接しては精液を補給し、また交接し…という流れを繰り返します。オスの調子、あるいはメスとの相性が良いようでしたら、クモ任せで交接させた方が、よっぽど受精する可能性は高いでしょう。

次に、麻酔によるメスへの影響を軽視すべきではないです。私が試してみた限り、寒冷麻痺は実用的ではないと感じました。また、ガス麻酔は慣れていないと加減が解らない上に、扱いを間違えば飼育者自身にも危険が及ぶ可能性があるので、扱いなれていない方のご使用は全くもっておすすめできません。そのような理由から、どのようなガスをどのような方法で用いたのかについては言及しません。また、私が用いている気体は、一部の昆虫で繁殖生理や学習に影響を及ぼすことが報告されています。タランチュラに対して影響がない保証はありません。そうした点からも、安易な使用は避けるべきでしょう。

また、操作手順そのものの難しさもあります。タランチュラの肢には、密生する剛毛のなかに点々と長い針毛(トゲ?)が生えています。メスを手で持つ際に誤った持ち方(そもそも持つこと自体、正しくありませんが)をすると、その針毛が腹部に刺さってしまうようです。今回、私もやってしまいました。肢と腹部をまとめて包み込むように持ったせいで、おそらく腹部に1番近い第4脚の針毛だと思いますが、それが腹部に刺さってしまいました。幸い数滴程度の体液が腹部から出ただけで止まりましたが、一歩間違うと大事故に繋がりかねません。
同じく気を付けるべきは、オスの移精針の形状です。今回人工交配に挑戦したバイーアスカーレットの移精針はさほど尖っていませんでしたが、種によっては(例えばチャコジャイアントゴールデンニーなど)移精針が非常に細く鋭く、文字通り針になっています。このように尖った移精針を、メスのポケットの内側を傷つけないように、ましては突き刺すことなどないように飼育者が挿入することは、非常に難しいと思います。

こうして色々と挙げてみるとお解りいただけると思いますが、私が行った人工交配の手法はオススメできるものではありません。しかし、貴重なオスが食われてしまった最悪の状況の中で、ある意味「苦し紛れ」に取る手法としては、私自身は有りだと思っています。伸るか反るか。そんなところでしょうか。

さぁ、あとは待つばかりです。
(まぁ、無精卵だったというオチがつく可能性は、私自身十分に想定しています。)


[画像]
1枚目
人工交配の様子。右手の人差し指と親指の間からチラッと見えているのが、切り落としたオスの触手の先にある移精針です。

2枚目
人工交配後。メスのポケットの真ん中に、うっすら滴(精液の一部)が見えているのがお解りでしょうか。

3枚目
卵嚢を抱えるメス。以前にメキシカンレッドニーを繁殖させたときもそうでしたが、今回のメスも若く小さめの個体です。オスのタッピングや振動などのアプローチに対して良い反応を見せるメスであれば、少々小さい個体であっても問題なく繁殖できるであろうというのが私の考え方です。
 
 
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